
中小企業「成長加速化補助金」を“通す”ための完全ガイド
執筆:中小企業診断士 馮 智顕
だいじなのは、趣旨に合うストーリー+具体的な計画(数字・段取り)+経営者の想いと現場のリアリティ+わかりやすい言葉。
この4点を外さなければ、通過率は体感でグッと変わります。
1. まずは全体像(2025/9/29時点の公式要点)
- 目的:売上高100億円を目指す成長志向の中小企業に、大胆な投資(設備・建屋・システム等)を支援。賃上げや外需獲得、地域波及を狙う大型スキームです。(補助金活用ナビ(中小機構))
- 対象者:売上高10〜100億円未満の中小企業で、**「100億宣言」**を行う(公表)。(補助金活用ナビ(中小機構))
- 補助上限・率:最大5億円/補助率1/2。事業期間は交付決定から最長24か月。(中小企業庁)
- 主な対象経費:建物費/機械装置(器具・備品含む)/ソフトウェア/外注費/専門家経費(※老朽更新だけは不可)。(補助金活用ナビ(中小機構))
- 投資規模の下限:1億円以上(税抜・外注費/専門家経費を除く補助対象分)。(補助金活用ナビ(中小機構))
- 賃上げ要件:補助事業終了後3年間、給与支給総額または一人当たり給与の年平均上昇率が、都道府県の最賃5年平均上昇率以上。未達は返還あり(例外要件あり)。(補助金活用ナビ(中小機構))
- 申請方法:jGrants(電子申請)。gBizIDプライム必須。電子申請マニュアルあり。(100億企業成長ポータル)
- 直近の動き:**1次公募(2025/5/8〜6/9)**は終了し、9/19に採択候補を公表。(100億企業成長ポータル)
2. どんな投資が刺さる?(OK/NGの勘どころ)
OKの典型(=“100億に向けた成長エンジン”)
- 新ライン・新拠点の増設/新設(建屋+設備+システムを一体で)
- 輸出・外需を取りに行くための設備高性能化・規格対応
- ボトルネック解消と高付加価値化を同時に狙う大型設備投資
→ 経営戦略の中で“なぜ今、何に”投資するかが一目でわかる計画に。(補助金活用ナビ(中小機構))
NG/弱い例
- 老朽設備の単なる更新(改善幅が小さく“成長”に寄与しない)
- 100億までの成長シナリオ不在(市場・販売・人材が曖昧)
3. 申請~採択後の全体フロー(迷わない5ステップ)
- 100億宣言を出す/更新(売上10〜100億未満が対象)。jGrantsで申請→ポータル掲載。(100億企業成長ポータル)
- 骨子づくり:結論→市場機会→打ち手→効果→体制(テンプレは後述)。
- 仕様・要件定義:性能値・I/F・検収基準・里程標を1枚に。
- 相見積:同等仕様で2〜3社(価格妥当性)。
- jGrantsで申請:提出書類をアップ→1次(書面)→2次(経営者プレゼン)審査。
4. 提出書類(要点だけ覚える)
- 様式1:投資計画書(PDF・40p以内)
- 様式2:投資計画書別紙(Excel)
- 様式3:ローカルベンチマーク(Excel・.xlsm)
- 決算書3期分(B/S・P/L・販管費明細・製造原価明細 等)
- 金融機関確認書(任意・提出あれば審査で同席可)
- リース関係(共同申請時:宣誓書・リース料軽減計算書)
※jGrants 1ファイル16MB制限に注意。
5. 審査の中身(ここが“通す”肝)
- 1次:書面(定量)+**2次:プレゼン(定性)**の二段審査。経営者の登壇が必須。
- 評価軸の例:
- 経営力…100億へのビジョンと、その中で当投資がどう効くか。
- 成長性…5年の売上・粗利・付加価値の伸びが**“式”で届くか**。
- 実現可能性…体制・資金計画・調達確度・検収基準。
- 波及…賃上げ、サプライチェーン、地域経済への効果。
6. “通る”ストーリー骨子テンプレ
やりたいこと(結論1文)
例:海外医療機器向け微細部品で3年売上+60億を作るため、新工法ライン+クリーン棟+検査DXに投資する。
市場機会(外部根拠)
- ターゲット市場規模/成長率/参入条件(規格・品質・認証)
- 競合との差分:スペック・納期・コスト・品質保証
自社の勝ち筋(内部根拠)
- 技術資産・既存顧客/販路・量産実績・知財
- なぜ自社がやると勝てるか(人材・組織・立地)
投資の中身(対象経費のひも付け)
- 建物(クリーン棟◯m²、クラス、空調)→建物費
- 設備(加工×◯台、検査×◯台、AGV等)→機械装置
- システム(MES/WMS/検査AI)→ソフトウェア
- 一部工程の外注・専門家活用 → 外注費/専門家経費(役割と成果物を明確化)(補助金活用ナビ(中小機構))
効果(“式”で置く)
- 売上=(顧客数×案件率×平均受注額×立上げ曲線)
- 粗利=売上×粗利率(工法効率・歩留まりで**+◯pt**)
- 付加価値=営業利益+人件費+減価償却(5年CAGR+◯%)
- 賃上げ:最賃5年平均**≥自社の給与総額CAGR**(規程改定・財務裏付けを添付)。(補助金活用ナビ(中小機構))
体制・ガバナンス
- PjM/生産技術/品質/営業/財務の責任範囲
- 調達確度・納期リスク・建設工程の代替策(二重化)
スケジュール(交付決定から逆算)
- +1週 発注 → +8週 FAT → +12週 据付 → +16週 SAT → 量産
- マイルストンKPI:工事進捗/検収合否/初回合格率/月次CV
想い(リアリティ)
価格競争から卒業し、技術で選ばれる会社へ。地域で良い雇用と賃上げを続ける。
7. 書き方のコツ(読み手=審査員の頭の順番に合わせる)
- 抽象は1文→すぐ具体
- NG:高付加価値化を図る。
- OK:Ra0.2→0.05/歩留まり92→98%/規格○○取得で医療市場に入札可。
- 理由→結論(課題→対策→効果)。式で数字を置く。
- 主語は“誰が”(経営者・生産技術・品質…)で固定。
- 図で因果(工程・能力曲線・市場アクセス)。
- 一次情報で裏づけ(現場ログ、顧客LoI、認証スケジュール)。
- 条文とのひも付けを欄外に(審査確認が速い)。
8. 見積・契約・資金の落とし穴(回避策セット)
- 交付“決定”前の発注・支払いは一切NG(前払・内金も不可)。関係者に“決定通知以後”ルールを徹底。
- 相見積は同等仕様で(性能値・精度・I/F・検収基準を仕様書で固定)。
- 建物費の線引き:新事業の実現に不可欠な範囲に限定(汎用拡張は弱い)。(補助金活用ナビ(中小機構))
- リース活用:共同申請の場合は宣誓書/リース料軽減計算書を忘れずに。
- gBizID→jGrantsは早めに。申請フローは公式マニュアルで事前確認。(100億企業成長ポータル)
9. 他制度との使い分け
- 新事業進出補助金:新市場に挑む開発+設備(付加価値・市場性が主戦場)。
- 省力化補助金:人手不足×省力化(既製機器〜オーダーメイド)。
- 成長加速化:“100億コミット”の大型投資(建屋を含む重厚投資も対象)。
それぞれ目的・上限・審査観点が違います。今回は100億宣言&1億円超投資が入口。(補助金活用ナビ(中小機構))
10. 直前チェック
- 結論1文(何に投資し、何を何年でどれだけ伸ばす)
- 市場根拠(規模・成長率・参入条件・顧客像)
- 仕様書(性能・I/F・検収基準)+同条件の相見積2〜3社
- 効果の式(売上・粗利・付加価値CAGR・賃上げ)
- 資金計画(補助外費用・運転資金・資金繰り)
- リスクプラン(納期・建設・人材・認証の代替策)
- 100億宣言の掲載済み/jGrantsの動作確認
- 交付決定前は発注ゼロの周知徹底。(100億企業成長ポータル)
11. 公式・一次情報
- 100億企業成長ポータル(制度・宣言・スケジュール・ニュース) (100億企業成長ポータル)
- 中小企業成長加速化補助金|概要・要件(中小機構) (補助金活用ナビ(中小機構))
- 公募要領(1次公募・PDF)(提出物・審査・プレゼン要件まで網羅)
- 制度概要資料(METI)(上限5億・補助率1/2・期間24か月) (中小企業庁)
- 公募要領の公表(中小企業庁)(jGrants案内・問い合わせ) (中小企業庁)
- 採択結果(中小企業庁)(1次公募の採択候補公表 2025/9/19) (中小企業庁)
- 電子申請マニュアル(PDF)(GビズID→jGrantsの手順) (100億企業成長ポータル)