
中小企業「新事業進出補助金」を“通す”ための完全ガイド
執筆:中小企業診断士 馮 智顕
要は、趣旨に合ったストーリー+具体的な計画(数字・段取り)+事業の想いと現場のリアリティ+わかりやすい言葉。
この4点に振り切れば、通過率は体感でグッと変わります。
1. まずは制度の全体像(2025/9/29時点)
- 正式名:中小企業新事業進出補助金(事業再構築補助金の後継ポジション)
既存とは異なる新市場・高付加価値事業への進出を後押しし、企業規模拡大・付加価値向上→賃上げにつなげるための大型補助金です。(中小企業庁) - 誰が対象?
中小企業等(中堅含む要件あり)。**“自社にとって新しい製品・サービスを、これまで届けていない顧客に提供する挑戦”**であることが肝。(経済産業省) - いくら出る?(補助額・補助率)
- 補助率:原則 1/2
- 補助下限:750万円(=投資総額1,500万円以上の計画が前提)
- 補助上限(従業員規模別の目安):
20人以下 2,500万円(3,000万円)/50人以下 4,000万円(5,000万円)/100人以下 5,500万円(7,000万円)/101人以上 7,000万円(9,000万円)
※かっこ内は大幅賃上げ特例(最低賃金+50円&給与総額+6%達成)適用時の上限。最大9,000万円。(経済産業省)
- 対象経費(例)
機械装置・システム構築費/建物費/運搬費/技術導入費/知的財産権等関連経費/外注費 など。期間・使途の線引きは公募要領が一次情報。(経済産業省) - 満たすべき“基本要件(KPI)”の代表例
3~5年の事業計画で:
①付加価値額CAGR+4.0%以上、②賃金伸び(地域最賃の直近5年平均伸び以上または給与総額CAGR+2.5%)を達成、③事業所内最賃+30円、④一般事業主行動計画の公表 等。(経済産業省) - 最新スケジュール(公募回)
第1回:2025/4/22 公募、6/17申請開始、7/15締切(延長)、採択10月頃。第2回:2025/9/12公募開始、11/10申請開始、12/19締切(18:00)。以降も複数回実施予定。(中小企業庁) - 申請方法:jGrants(電子申請)。gBizIDプライム必須(発行に時間がかかるので先着手)。(中小企業庁)
超重要:交付“決定”前の発注・契約・支払いは全て対象外。採択=OKではありません。ここでつまずく案件が本当に多い。(経済産業省)
2. どんな取組みが“刺さる”?(OK/NGの感覚をつかむ)
OKの典型(要は“新しい×稼ぐ力UP”)
- 既存と異なる事業領域での製品化・サービス化(試作~量産/提供までの投資)
- 高付加価値な新ラインの立上げ(新工法、特殊材料、知財活用、品質規格の高度化 など)
- 新市場への進出に必要な設備・システム・建屋まで一体投資(要件内)(経済産業省)
NG/弱い例
- 単なる入替・保守目的(新規性・市場性が薄い)
- 既存事業の延長で新規顧客が見えない
- KPI(付加価値・賃上げ)に数字でつながらない説明
3. 申請~採択後の全体フロー(迷わない5ステップ)
- 骨子づくり:結論→市場機会→打ち手→効果→体制
- 仕様・要件定義:設備・システム・建屋の性能/I/F/検収基準を一枚に
- 相見積:同等仕様で2~3社(価格妥当性)
- jGrants申請:要領/様式に沿って事業計画+根拠資料を添付(gBizIDプライム必須)(中小企業庁)
- 採択→交付申請→交付決定→発注→導入→実績報告(KPIの追跡も計画どおり)(経済産業省)
4. “通る”ストーリー骨子テンプレ(コピペOK|口語)
やりたいこと(結論を1文で)
例:産業用カメラ×AI×専用ラインで医療向け微細部品に新規参入し、3年で売上12億/粗利率+8ptを実現する。
市場機会(外部根拠)
- 顧客セグメント/未充足ニーズ/市場規模・成長率(公的統計・業界資料)
- 競合との違い:スペック・認証・コスト構造・納期
自社の勝ち筋(内部根拠)
- 技術資産(材料・加工・ソフト・知財)/量産実績/既存販路の活用余地
打ち手(投資の中身)
- 設備・建屋・システムをまとめて記述し、**“新市場に必要な仕様”**を満たすことを明示
- I/F・検収基準(能力、精度、タクト、稼働率、歩留まり、規格適合)
効果(“式”で置く)
- 売上=(顧客数×案件率×平均受注額×立上げ時期別稼働)
- 粗利=売上×粗利率(工法変更・歩留まりで**+○pt**)
- 付加価値=営業利益+人件費+減価償却(**CAGR+4%**が到達可能か)
- 賃上げ:事業所内最賃**+30円**、給与総額**+x%**(就業規則・賃金規程で裏づけ)(経済産業省)
体制・ガバナンス
- 誰が:PjM/生産技術/品質/営業/財務の責任範囲
- 外部:ベンダー/共同研究先/認証機関
スケジュール(交付決定から逆算)
- 交付決定+1週 発注 → +8週 FAT → +12週 据付 → +16週 SAT → 出荷開始
- マイルストンKPI:工事進捗/検収合否/初回合格率/月次CV
想い(リアリティ)
価格競争から抜け、“技術で選ばれる”領域で戦う。地域に良い雇用を増やし、賃上げが続く事業体にする。
5. 書き方のコツ(審査員の頭の順番に合わせる)
- 抽象は1文→すぐ具体
- NG:高付加価値化を図る。
- OK:表面粗さRa0.2→0.05、歩留まり92→98%、認証○○取得で医療市場の入札条件を満たす。
- 理由→結論(課題→対策→効果)
- 主語は“誰が”(生産技術が…/品質が…)で固定
- 図で因果(工程図・能力曲線・市場アクセス)
- 一次情報で裏づけ(ライン実測、顧客ヒアリング、LoI/PoC結果)
- 要領条文に“ひも付け”(本文中に【根拠:p.◯】と明記すると親切)(経済産業省)
6. 見積・仕様・契約の落とし穴(回避策セット)
- 交付決定前の発注・支払いは厳禁(前払・内金もNG)→社内外に“決定通知以後”ルールを徹底。(経済産業省)
- 相見積は“同等仕様”で:性能・精度・I/F・検収基準を仕様書で固定。
- 建屋費の扱い:新市場参入に不可避な改修・新設に限定(汎用拡張は通りにくい)。(経済産業省)
- 知財・技術導入費:契約形態・利用範囲・成果物の帰属を明記。(経済産業省)
7. 加点・特例の“取り切り”戦略
- 大幅賃上げ特例(最賃+50円/給与総額+6%)を計画に織り込むと上限引上げ。達成根拠(財務計画・賃金規程・資金繰り)を付す。(経済産業省)
- GX/DX・地域性・人材育成など、回ごとの審査観点を証憑付きで明記(本文だけでは加点にならないことが多い)。(経済産業省)
8. 類似制度との使い分け
- 省力化補助金:人手不足×省力化が主目的(既製機器~オーダーメイドまで)。
- 新事業進出:“新市場に挑む”開発・設備投資が主目的(付加価値・市場性が主戦場)。
「既製省力化」なら省力化、「独自の新市場開拓」なら新事業進出がハマりやすい。(経済産業省)
9. 直前チェックリスト
- 結論1文(何に参入し、何をどれだけ伸ばす)
- 市場根拠(規模・成長率・顧客像・競合差)
- 仕様書(性能・I/F・検収基準)+同条件の相見積2~3社
- 効果の式(売上・粗利・付加価値CAGR・賃上げ)
- 資金計画(補助外費用・運転資金・回収月)
- ガバナンス(体制・里程標・KPI)
- 交付決定前は発注ゼロの周知
- **jGrantsアカウント(gBizIDプライム)**準備OK (中小企業庁)
10. スケジュールと一次情報
- 公式ポータル(SMRJ):制度概要・公募回の案内・FAQ。(補助金活用ナビ(中小機構))
- 第1回 申請受付開始(中小企業庁):日程・制度趣旨の一次情報。(中小企業庁)
- 制度説明資料(METI PDF):上限・補助率・KPI・対象経費の詳細。(経済産業省)
- 第2回の日程(SMRJ特設サイト):公募・申請受付・締切(18:00)。(中小企業新事業進出補助金)